特集・連載
私大の力
<60> 「過疎の象徴」を逆手
「知の拠点」に期待
「空き家」再生で地域活性化
■寝屋川市の「空き家税」導入の意味
7月9日、大阪・寝屋川市の市議会で、「空き家」の所有者に課税する条例が可決された。「空き家税」は、京都市でも区域を限って導入することが決まっているが、市内全域を対象にするのは全国でも初めてという。
人口約22万人の大阪のベッドタウンの寝屋川市には、人が住んでおらず、賃貸や売却にも出ていない「空き家」が約6000戸もある。市長は「その活用や適切な処分を促すには、所有者の背中を押す仕組みが必要と考えた」と語っている。
「空き家税」導入を答申した有識者会議で、会長・副会長をつとめたのは地元の私立大の経済学部の教授たちだった。いずれも地域情勢に詳しく、何が課題となっているかを知悉している専門家として、地域の「知の拠点」の役割を果たした。
「空き家」は全国で深刻な問題になっているが、この課題に取り組もうとする地方の大学の活動が各地に広がりをみせ始めた。「課題解決を学生たちの成長につなげ、同時に地域の活性化にも役立とう」というのである。
ある大学では、市内に点在する空き家の分布状況を調査し、町内会・商店会などと連携して「空き家地図」を作ることから始めた学生グループがある。空き家を改修して、宿泊施設として再生するプロジェクトが動き出した大学もある。
7月28日には熊本県でまた大きな地震があったが、こうした震災や豪雨災害が毎年のように起きるなかで、「空き家」の数は増え続け、手をこまねいていては、地域が元気を失うのは目に見えている。しかも、その土地土地によって、問題の在りようはさまざまで、全国一律の基準でさばくことは難しい。
そこに各地の大学の研究室や学生たちが、立ち上がろうとしている。
関西のある大学の研究室では、広島県内の築100年を超える古民家を「教材」に空き家を改修し、その古民家から「日本の田舎暮らしの良さ」を国内外へ発信するとともに、地域と連携して活性化策を模索する取り組みを実践している。
地域に根差した大学の、地域創生と実践的な学びを結びつけた取り組みが、地域の人たちから熱い支持を受けている。
■能登の被災地では「空き家マップ」
能登半島地震で被害を受けた金沢市で先ごろ、「協働のまちづくりチャレンジ事業」の令和8年度の採択があり、学生・高校生の部門で金沢大、金沢学院大、金沢星稜大などとともに、金沢工業大の2団体が表彰された。
そのひとつが「インカレリノベ団体RENOVA(リノバ)!」という「空き家活用の新たな仕組みづくり」を目指す学生団体だ。建築学部建築学科4年の杉山遥らを中心に、町内会などと連携して金沢市内の空き家のマッピング(分布地図)を作成して問題の解決につなげようとする取り組みだ。
運動のきっかけは、「市内の空き家の数や分布が十分に把握されていない。所有者や管理状況が分かりにくい。活用したい事業者と空き家情報が結びついていない」といった課題を解消したいとの思いだった、という。
杉山らのグループが、建築・デザイン・町づくりを学ぶ学生たちに呼びかけると、県内外の8つの大学の学生たちが集まった。「インカレ型」の学生団体として地元企業などの協力も得られ、「空き家の調査・可視化、データの整理・図式化、町会へのマップ引き渡し」と進めてきた。
表彰理由には「本事業により、空き家の把握と利活用の促進、地域住民・行政・事業者間の情報共有、持続可能な地域運営の基盤構築、が期待されます」とあった。
能登半島地震から2年半が過ぎた。被災地では住宅などの公費解体がほぼ終わり、復旧・復興作業が続けられている。
最も大きな被害のあった輪島市でも、空き家を改修し、宿泊施設として再生するプロジェクトが動き出した。地震と豪雨の傷痕が残るなか、地元の商工会議所などで作る協議会は市と協力してプロジェクトを進めることになり、空き家を宿泊施設に再生し、観光客だけでなく、地元出身者が帰省する際にも、利用してもらうことにした。
観光の拠点だった「朝市通り」では、金沢工大建築学部の竹内申一研究室が商店街組合の依頼を受けて、地震で焼失した商業施設4棟の基本構想案を昨年末から3か月をかけて作成し、2月に輪島市長に届けた。
地元商店街連合会のホームページには、「市長からは、朝市通りは復興のシンボルであり、できるだけ早く完成させたい、との復興に向けた力強い言葉をいただきました。この様子は、金沢工大のホームページでも掲載していただいています」とある。
震災前の朝市通りは、商店街のほか輪島名物の朝市の店がずらりと並び、全国からの観光客などで賑わっていた。
金沢大は昨年11月、「記憶の街ワークショップ」を開いた。阪神淡路大震災のあとに神戸大が始めた被災地の模型復元プロジェクトで、今回は、金沢大・神戸大の共催イベントに金沢工大の竹内研究室も参加した。
建築を学ぶ学生たちが,被災前の地域の姿をジオラマ模型にして,地域の人たちと一緒に「ふるさと」の思い出を蘇らせることで、全国各地の震災復興への努力を後押しする狙いがある。
■日本「古民家」の魅力を内外に発信
国土交通省によると、空き家の定義として「1年以上誰も住まず、使われてもいない家」とある。その数は膨大なものに膨らみ、全国で日々、増え続けている。
そうした空き家の中には、築100年を超えるような「古民家」と呼ばれる空き家も各地に存在する。日本政策投資銀行の調査によると、その数だけでも約21万戸に達するという。
古民家には、建材としての古木や建築様式・生活習慣の跡など、学生たちの学習のタネとなる資源がふんだんに眠っている。地方にとっては、潜在的な資産と言えるものであり、大学の中には、「それらを放置せず、有効活用することは、地方活性化に役立つ」と古民家の再利用に取り組むところも出てきた。
そのひとつ、大阪工業大の「学生と地域でつくる古民家リノベーション」は3年前に工学部建築学科の藤井伸介研究室が立ち上げた。
舞台は、兵庫県洲本市に残る古民家である。ホームページによると「1年目は、離れを改修して集会やダイニングとして使える場を整備し、2年目は地元の職人に学びながら、学生たちの宿泊施設を自分たちの手で完成させた」という。
そして3年目となった昨年秋には、地域の人たちも利用できる図書室とカフェを整備し、「学びの場が少しずつ地域に開かれ、交流の拠点へと発展しています」という。
古材を活用しながら、パズルを解くかのような難しい作業にも挑んだ。淡路島で作られたタイルを利用して床の段差を調整する。島の竹で天井を補強し、土壁塗りで仕上げた。
こうした実践が、建築を学ぶ学生たちにとって、得難い学習体験となっている。
関西では近畿大工学部建築学科でも、「空き家」問題に取り組んできた。
准教授、谷川大輔の研究室では10年ほど前から、広島市の東隣に位置する東広島市の築100年を超える古民家の空き家を利用して、「伝統建築の技法を生かしながら現代風に改築する方法」を学生たちに教えてきた。
研究室では、海外からの留学生も交えてワークショップを開くなど、再生古民家から「日本の田舎暮らしの良さ」を国内外へ発信するとともに、地域と連携して新しい町づくりを考えることも、学生たちの研究テーマとなっている。
■「持続可能な」地域の発展を目指して
「空き家」の再生活動は、建築の実践的スキルを身につけると同時に、学生たちがチームとして成果を築く達成感を味わうことでその成長を後押しし、地域社会に新たな息吹をもたらす学習プログラムとして注目される。
気候変動や大気汚染、資源不足など環境問題が深刻化していく中で、企業の間でも「サステナブル(持続可能)な開発目標(SDGs)」の理念を掲げる経営が重要になっている。専門家は「これからの建築も、『作る』時代から『古いものを更新して生かす』時代へ、という考え方が大切な要素になってくる」と指摘する。
また日本への外国人旅行者が急速に伸びて、訪日回数が2回目以上のリピーターが約6割を占め、「日本の田舎の風景」を見たいという人たちが増えた。なかでも古民家は、日本でしか楽しめないコンテンツとして外国人の注目を集めているという。
一方、日本国内でもデジタル化によって、リモートワークやワーケーションといった新しい働き方が定着するのに伴い、都市部から離れた地域にある空き家・古民家を仕事場として活用し、田舎暮らしを楽しむ人たちも増えてきている。
そうした様々なニーズに応じる「知の拠点」としての地域の大学の存在感に、新たな光が当てられている。
